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ソニックチャンネル

連載サウンドコラム

ソニックチームのサウンドディレクター瀬上 純と大谷 智哉によるコラムコーナー。

リズムトラックメイキング

みなさんこんにちは、「ソニック」シリーズ サウンドディレクターの大谷です。

これまで生演奏のレコーディングについては何度か取り上げてきましたが、今回はいわゆる“打ち込み”で使用する機材(今回はドラム・サンプラー)を紹介してみたいと思います。音色作りからシーケンスまで、突き詰めればキリがないのですが、打ち込みには全てを自分でコントロール出来る面白さがあります。サウンドコラム的には少しマニアックな話題かもしれませんが、お付き合い頂けたらと思います。

それは僕がセガに入社する前のこと、学生時代にまで遡ります。アルバイトをして音楽制作用の機材を買い揃え、当時組んでいたバンド用のデモを作ったり、小劇場で活動する劇団の音楽や音響効果の制作をしたりしていた時期、その頃に使っていた機材の1つが『AKAI MPC2000』というサンプラーです。

主にHIP HOPなどのジャンルでトラック制作する方にとっては、AKAIのMPCシリーズは定番機材で、リズムマシン、サンプラー、シーケンサーとしての機能があります。音楽制作以外にも効果音のポン出しなどに便利で、舞台の音響のオペレーションで重宝していました。新卒採用課題のデモテープに収録した楽曲も、ほぼこの機材で作ったと思います。

どう使うのかといいますと、まず本体に鳴らしたい音を録音(サンプリング)します。サンプラーなので、録音するか、ロードするか、なんらか音を用意しないと電源を入れただけでは何も鳴りません。録音したサンプルを前面のパッドにアサインし、波形の再生開始ポイントや各種パラメーターなどを編集した後、叩いて演奏したり、シーケンスとして打ち込むなどして曲を作ることが出来ます。

『ソニック アドベンチャー2』の制作時(2000年頃)、ナックルズのステージ曲で聴くことが出来るHIP HOP系のビートにはこのサンプラーが大活躍しました。バックアップに使用していたZIP(ジップ)ディスクという記録メディアには、「Pumpkin Hill」、「Aquatic Mine」、「Death Chamber」などのリズムトラックの音色が保存されています。もう長らく使っていない機材なのですが、先日、久しぶりに電源を入れたらちゃんと起動して、当時に作った音色もちゃんと読み込むことが出来ました。



AKAI MPCシリーズは、1988年に発売されたMPC60以降、MPC3000、MPC2000XL、MPC5000など、性能の異なる様々なモデルが発売されています。現在もPCのフィジカルコントローラーとして進化を遂げたMPC TOUCHというモデルが発売されています。

「E-MU SP-1200」

この手のサンプラーを使う人には、もう1つ憧れの機材があります。それが『E-MU SP-1200』です。

こちらも同様に、HIP HOPなどのトラック制作では定番の機材で、サンプラー、リズムマシン、シーケンサーという点では同じなのですが、そのスペックに大きな特徴があります。本体のメモリに録音可能なサンプリングタイムがモノラルで10秒間、1パッドにアサイン出来るのは2.5秒まで。ドラム等のワンショットならまだしも、フレーズサンプリングしようと思ったら、分割するしかありません。ビットレートは12bit、サンプリング周波数は26.040 kHz(CDが44.1kHzなので約半分の音質)と、決して高いとは言えないスペックなのですが、ビットレート、サンプリング周波数が低いため、無駄な帯域がなく引き締まった太い音がします。

録音出来る秒数が少ないことから生まれた、SP-1200ならではの音作りの手法があります。サンプリングしたい素材のピッチを上げて、素材の長さ自体を短くしてから録音します。その後、本体側でピッチを下げて元の長さに戻すわけですが、12bitで録音された音が無理矢理引き延ばされるので、ザラザラ、ガビガビしたエイリアスノイズが強調されます。そのローファイさがSP-1200ならではの、かっこいいサウンドの秘訣なのです。

僕がこの機材を中古で購入したのは2001年くらいだったと思いますが、その当時、21万円くらいで購入したと思います。10秒間しかサンプリング出来ないくせになかなかのいいお値段、そしてそれを買ってしまうなんて(笑)(ちなみに、現在はプレミア価格でもっと高いと思います......)今でも大好きなサウンドではありますが、長らく出番もなく眠らせてしまっていた為、つい先日ヴィンテージ機材を扱う専門店に買い取ってもらいました。(フロッピードライブや一部スライダーに不具合があったにもかかわらず、17万円で売れました!)

「ソニック」シリーズの楽曲では、単発のドラムキットやいろいろな曲の一部の音作りで使ってきましたが、分かりやすいところでは、『スペースチャンネル5 part2』の「ストロボアクション」という曲の上もの(うわもの)で使っています。(これまたマニアックな例ですいません......)

ソフトサンプラー

もちろん今でも、そういったハードサンプラーの良さを愛して使い続けているミュージシャンの方はたくさんいらっしゃいますが、現在のコンピューターを中心とした音楽制作環境ではソフトサンプラーが主流かもしれません。僕も10年程前に乗り変えまして、現在使っているのが、Native Instrumentsの『BATTERY』というソフトサンプラーになります。(現在は Ver.4)

MPCシリーズにも似たインターフェイスで、鳴らしたい素材を読み込んでセルにアサインし、入力装置を叩いてリズムパターンを打ち込んでいきます。サンプリングタイムの制約もありませんし、ハードディスク上にある好きな素材を瞬時にインポートし鳴らすことが出来、パラメーター調整などの操作感もスムーズです。好きな素材をだけを集めたオリジナルのドラムキットを作ったり、過去曲で使用したキットも自作のプリセットとして保存してあるのですが、トータルリコールの容易さもメリットの1つです。

最近の曲では、『ソニック ランナーズ』の「Power Ride」や「Strange Parade」のリズムトラックは、このサンプラーで鳴らしています。(プリセットの音色ではありません)


Power Ride
SEGA / Tomoya Ohtani

Strange Parade
SEGA / Tomoya Ohtani


ドラムキットを録音したProToolsの編集ウィンドウ。音作りをした後に1音づつ波形を切り出して、BATTERYのセルに登録してプログラムを作ります。

他にも、生ドラムを収録した最後に、キック、スネア、ハイハット、タム、シンバルと各キットの単発の素材を強弱のバリエーションをつけて収録させてもらい、エンジニア氏に音作りをしてもらった素材を切り出してプログラムを組み、オリジナルの生ドラムキットを作っています。このプログラムが最近のデモ制作でかなり重宝しています。

ちなみに、今回の記事を書くにあたり調べ物をしていたところ、BATTERY 4には、SP-1200やMPC60の音質をシミュレートしたと思われるモードがあることを知りました。使ったことなかった!(笑)

僕が初めて制作に参加した『ソニック アドベンチャー2』から今年で15年。その間にも、リズムトラックの打ち込みで使用する機材1つとっても、制作環境は大きく変わりましたが、いい音楽を届けたいと思う気持ちは年々大きくなるばかり。昔からどんなジャンルの音楽であれ、かっこいいリズムトラックを作りたいという気持ちが強かったのですが、ノリが重要なアクションゲームの楽曲制作は、そのこだわりを存分に発揮する事が出来る場です。次はどんな曲が出来るでしょうか、楽しみにしていて下さい!

ではまた!