ソニック & ルージュ 前編
愛と欲望の空間『エッグマンランド』(建設者談)。
エッグマンの科学技術と美意識によってデザインされた狂気の遊園地エリア。
ハデな遊園地とギラギラした工場基地とが融合し、入場者に悪意を振りまく凶悪な防衛システムと、遊園地然とした遊具とが、強烈な違和感をかもし出しています。そしてエッグマンが敗走した今となっては、そこには広大な廃墟エリアが横たわるのみ。誰も近づく者はありません......
そんなエッグマンランドの、とある雲一つない月夜の晩。
七色の流れ星の情報を追ってやってきたソニックは、廃墟となったはずのエッグマンランドに煌々と灯りがともっているのを見て少なからず驚きました。
「これは一体どういうコトだ?」
かつて『ダークガイア』という強大な「ちから」が目覚めた時、エッグマンがそのエネルギーを利用して建造したこの悪趣味な遊園地は、彼の野望の終焉とともに完全に機能を停止したはずなのです。
誰が、どうやって再稼働させたのか......?
さっそく突入して調べようとしたソニックでしたがその時、彼の頭上から、しっとりとつややかな......そして上機嫌な女性の声が降り下りてきました。
「あらぁソニック。いいトコで会ったわね~♪」
見上げるとそこには、月明りを背にゆっくりと空から舞い降りる、翼を持つ見知った人影......
ルージュ・ザ・バット......宝石専門のトレジャーハンターにしてスゴ腕スパイな女コウモリの、妖艶(ようえん)な姿がありました。
ルージュは、とある筋からエッグマンランドの調査依頼を受けてやって来たのですが、忍び込んでみたところ大量の防衛ロボットが再稼働しており、身動きが取れなくなっていた......と状況を説明します。
「だから、ちょっと協力してくれない?アンタの自慢の足でロボットを陽動してほしいの。見つけた情報は共有するし、アタシがサポートするから!......ね?」
なんのことはありません。ソニックをオトリに自分は安全に調査しようというのです。苦笑するソニックでしたが、コイツはこういうヤツだったなとヤレヤレと協力を引き受けます。
「OK、ま、いいさ。もともと一人でそれをやるつもりだったからな」
「うふっ、アリガト♪ 物わかりがいい男の子って好きよ?」
「そりゃどーも。」
イヤホンタイプの通信機をソニックに渡し、それから左手の中指にはめたエメラルドの指輪を見せつけながらルージュは続けます。
「この依頼、報酬を前払いにしてもらっちゃったから、絶対にヘマしたくなくて......ホント助かったわ~♪」
自らも指輪に視線を移してうっとり顔のルージュに、半ば呆れたソニックが問いかけます。
「相変わらず報酬は宝石か。たくさん持ってるだろうに、まだ欲しいのか?」
「あら、わかってないのね。いい宝石を手に入れると......」
目を細め、視線を指輪からソニックに移して続けます。
「もっといい宝石の価値がわかるようになるのよ」
ネオンがきらめく真夜中のエッグマンランドのあちこちで、次々と爆発音が響き渡ります。
巨大なエッグマン像の裏から、プラント施設の配管のスキマから......大量に沸きだすエッグマンのロボットをソニックがハデに破壊していきます。
「いい調子よソニック♪」
通信機から、ルージュの鷹揚(おうよう)で上機嫌な声が聞こえてきます。
「正面ビル屋上にエッグファイター5体、盾持ちよ。終わったら14時方向のコーヒーカップに向かってちょうだい」
ルージュの指示は大雑把なようで的確です。重要そうな施設を目ざとく見つけると、敵が潜むポイントと合わせて最適なルートをソニックに知らせます。
サーチ・ムーブ・デストロイ。サーチ・ムーブ・デストロイ......
本当にうまくいっている時の仕事というものは、時として作業のように淡々と進むものです。段々退屈になってきたソニックでしたが、その気持ちを読んで同意するかのようにルージュがこぼします。
「それにしても......月夜の遊園地に紳士と淑女がいて仕事してるだけって、何とも味気ない話よねぇ」
「ここを遊園地って呼んでいいかはちょっとギモンだけどな?......紳士と淑女ってトコも」
ルージュからの返信はありませんでした。
しばらくの"作業"の後......ソニックはある違和感を覚えました。
ルージュの指示が的確過ぎるのです。
また、動きについても、一見試行錯誤しているように見えますが、これまで一度も後退というものをしていませんし、進む方角はほぼ同じ......というか、何かから意図的に遠ざかっているような感すらあり、何とも不自然です。
そして何より奇妙なことは、ソニックが敵を引き付けている間にルージュが調査するはずの重要施設に、ソニックが着いた時点で、すでに何者かが入った形跡があることでした。ここでは初発見のはずのワープ施設ですら、入口のロックはすでに解除されていたのです。
「フフッ♪ ドクターってどっか抜けてるし、それくらいのポカはいつものコトじゃない?」
......ルージュとはずっと通信機越しに会話をしていますが、作戦開始以降一度も実際に会ってはいません。ルージュは本当にソニックの後を追ってきているのでしょうか?
「(まあ、アイツを疑いだすとキリが無いからなあ......)」
と、もう少し様子を見ようかと思ったその時、テイルスから借りたままになっていた「エネルギー検知器」が検知音を発しました。
そういえば、そもそもここには七色の流れ星......カオスエメラルドを追ってやってきたんだっけか、と検知器を覗いてみたソニックは、一瞬立ち止まり......そして何とも楽しそうな笑顔を浮かべると、心の中でつぶやくのでした。
「ナルホドねえ......」
愛と欲望の空間に、スリリングなミステリーが満ちていきました。