ソニック & ウィスプ 前編
風わたるウィンディバレーの、良く晴れた昼下がり。
一年中風が吹き抜け、岩や大地もが空に浮かぶ巨大な大渓谷...... この谷底の緑萌ゆる台地に、空よりも青い1つの旋風がふわりと降り立ちました。
素早く辺りを見回したその人影はまさしくソニックです。 首を軽くひねって思案するとこうつぶやきます。
「こんなイイ所にオバケなんかが出るもんかねえ......?」
ソニックはこの一帯にオバケが出るという噂を聞きつけて、それを確かめにやってきたのでした。
ただ、ソニックはそのオバケについて、ある程度の目星がついていました。口に手を添えると、谷中に響き渡る大声で "それら" に呼びかけます。
「Hey guys! オレだ、ソニックだ! みんな出て来いよー!」
数秒のち......
谷中の空気が震えたかと思うと、そこかしこのスキマや地中......はたまたはるか上空から、小さくてフワフワした生き物がたくさんあらわれて、ソニックの周囲に集まりました。
ピンク、黄色、水色......色とりどりで、丸かったり三角だったり四角かったり。かわいらしい妖精のようなその生き物は、きゃらきゃらと笑いながら宙を舞い、ソニックを歓迎します。
「△**=〇〇!!」
「ハハ! やっぱりオマエたちだったか!」
彼らは『ウィスプ』です。
ソニック達の住む星から、はるか遠く離れた星で暮らしていた宇宙人。
エッグマンに掴まってヒドイ目に合わされていたところをソニックに救われ、彼らの持つカラフルなスーパーパワーを使って一緒にエッグマンをやっつけた、気のいいやつらです。
あの戦いの後、ウィスプたちはそれぞれ自分の星に帰って行きましたが、ソニック達の星を気に入ったウィスプも少なからずいて、彼らの一部はこの星に残ったのでした。
とはいえ、まだまだウィスプのことを知らない動物たちもたくさんいます。それでソニックは、このオバケの噂の正体はこのウィスプたちだと見て、確かめにやってきたというわけなのです。
ですが......
「......あれ?」
ウィスプたちに遅れてこの谷に住む動物たちも集まってきたのですが、彼らはウィスプたちと親し気にあいさつを交わし、すでにずいぶんと仲良くしている様です。
オウム、ツバメといった鳥たちと一緒に空に遊ぶウィスプに、モグラと一緒に土遊びをするウィスプ......
彼らはもうすっかりこのウィンディバレーの住民として、溶け込んでいるようでした。
「フーム...... 仲良くやってるのはよかったけど......だったらオバケの噂はどこから......?」
「△**△△=〇=〇%##!!」
ウィスプ語をソニックは話せません。
テイルスがいれば翻訳機を借りられたのになあ、とソニックがどうしたものかとつぶやいた、その時......
ソニックは背後に何か不思議な気配と、熱い視線が自分に向けられるのを感じ、背筋がゾクリとしました。
「......!?」
ソニックが振り返ると、何か一瞬影のようなものが見え、すぐにすーっと消えてしまいます。はっきりとは見えませんでしたが、薄ぼんやりと光をはなつそれからは、何かの意思をもつ存在の気配が確かに感じられたのです......
これが噂のオバケでしょうか?
それはまたちょっと離れた所に現れ、ソニックが近づくとやはり姿を消します......そしてその数秒の後には、はるか上空の風の波間に浮かぶ風車岩の横に、またこつ然と姿を現したのでした。
「ハン......捕まえられるものなら捕まえてみろって? オモシロい」
その「影」の中々の逃げ足に、段々と楽しくなってきてしまったソニック。 この様子に、ウィスプと動物たちも何だ何だと集まってきます。
上空を不敵な笑顔で見つめるソニックに、さっそうと近づいてきたのは薄い青緑色の『シアンウィスプ』です。2人は目を合わせるとニヤリと笑い、無言で気持ちを通じ合わせます。
「イイねえ......! 久しぶりにオマエたちと一緒に、ここで突っ走るとするぜ!」
ソニックとシアンウィスプがハイタッチした瞬間、まばゆいカラーパワーがソニックたちを包みます。一瞬間のち、「シアン・レーザー」に合体変身した2人は、真空を切り裂く光の速さで「影」に向かって飛び出すのでした。
「オバケだか何だか知らないが、オレたちをからかったことを後悔させてやるぜ!」
ウィンディバレーに、オバケ vs ソニックたちの熱い鬼ごっこがスタートしたのでした。