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ソニック & シルバー 前編

朝もやに白絹の霧がたちこめる王家の谷。

薄ぐもりの空にたたずむ城門跡に向かい、走りくるソニックの姿がありました。

ソレアナ公国のかつての王城が眠る「キングダムバレー」。ここに七色の流れ星が落ちたという噂を聞き、駆けつけたのです。

そして城門跡を目視し、ラストスパートでスピードを上げようとした......その時です。

「......!?」

何かがソニックの足に当たってひっくり返り......そうになったところで、体が宙に浮かんだまま静止します。ぎょっとしたソニックでしたが、この感じには覚えがありました。サイコキネシスによるホールドです。

背後に近づく気配を感じながら、ソニックは振り返りもせず茶化した口調で呼びかけました。

「ようシルバー。未来じゃみんな、こーいうアイサツの仕方をするのか?」

「へへっ、悪いな。こうでもしないと、あんたは止められないからな」

力が解かれ、ふわりと着地したソニックがようやっと振り返ると、そこには白銀のハリネズミ......シルバーの姿がありました。

シルバーは数百年もの後の時代からやってきた未来人です。スピードはソニックに遠く及びませんが、強力なサイコキネシスを操る超能力者で、いくつかの冒険ではソニックとも共闘した仲なのでした。

そのシルバーが、一体何の用があってソニックを呼び「止め」たのでしょう? 数秒の沈黙の後、シルバーは頭をかきながら小さく頭を下げます。

「改めて謝る。悪かった。実はあんたに頼みがあるんだ」


シルバーの頼みとはこういうことでした。

「もうすぐここの橋が崩落する。救助を手伝ってほしい」

シルバーが未来で伝え聞く話では、キングダムバレーに七色の流れ星が落ちた翌日、ここの石橋が落ちたというのです。その橋は落ちたものの一瞬で復活し『よみがえりの橋』の逸話としても語り継がれているとのことでした。

それでソニック同様、七色の流れ星の噂を聞いたシルバーはキングダムバレーにやって来たわけなのですが、来てみればここは現在一般開放されていて、政府主導のツアー観光が行われているというのです。

「橋が落ちるから危険だって警告したのに、役人ときたら全く信じちゃくれないんだ!」

そこまで一気に言うと、その時のことを思い出したように憤慨するシルバーでしたが、ソニックはもしやと思い問いかけます。

「まさか『未来からきたからわかるんだ!』とか言ってたりしないよな?」
「まずかったかな...... でも、本当のことだろ?」

......ウーンと苦笑するソニックをまっすぐ見つめて、シルバーは続けました。

「とにかくみんなを助けたい。あんたが来てくれたら千人力だ。頼む」

つむっていた目を開け、シルバーを見つめ返すソニック。そう、シルバーはこういうヤツでした。まっすぐで、ウソがつけなくて、いつだって誰かの幸せのことを考えている......

ニヤリと笑うとソニックは請け合います。

「OKシルバー! 未来からきたヒーローのお願いとあらば喜んで」
「恩に着るぜソニック! でもオレはヒーローなんかじゃない。ただ、あらかじめわかってることを、何もしないままダメにしたくないんだ」

そう言いながら歩き出すシルバーを目で追いつつ、相変わらず冗談が通じないなとソニックは優しい苦笑を漏らします。

「わかったよ。ヒーローじゃないけど、正直者で未来人のシルバー」


見上げるように高くそびえるキングダムバレーの城壁を、シルバーの空中浮揚の能力で飛び越えていく2人。眼下には徒歩でツアーを楽しむ観光客と、渓谷を流れる川を行く遊覧船で景観を楽しむ一行が見えます。

城壁から王城の尖塔に飛び移り、何度目かの飛行でくだんの石橋にたどり着くと、それは尖塔と尖塔の間を結ぶ、幅広で長く伸びた白い石積みの橋でした。はるか眼下には霧に煙る川の流れがぼんやりと見えます。

橋に降り立ったシルバーは、側面に回って橋を鑑賞しながら、しみじみと言いました。

「これがその『よみがえりの橋』さ。石材の積み方だけで安定させる古代の知恵で、この要石(かなめいし)1つで何百年とこの重さを支え続けるんだ......立派なもんだろ?」

「詳しいなシルバー、建設会社でバイトでもしてるのか?」
「オレの時代じゃ昔話になってるような橋なんだ。ウンチクの1つや2つ知ってるさ」

雑談をしながら橋の真ん中で崩落の時を待ち続ける2人でしたが、そうこうする内に、ここにもツアー客が到着し人々が行き交い始めました。今、橋が落ちたとしたらそれは大変なことです。2人の間に緊張が走ります。

そして......さらに大勢のツアー客が到着して橋を渡り始めたその瞬間、それは起きました。

< ゴゴゴゴゴゴゴゴ......!>

足元から大きな地響きと振動が沸き起こります。縦揺れと横揺れが交互に襲う大きな地震......橋の上は地鳴りと人々の悲鳴とで騒然となりました。 みな、とても立って歩ける状態では無く、はいつくばって橋から落ちないようにするのが精一杯です。

「ハァッ!」

シルバーの気合一閃。

橋の中央で浮揚したシルバーからコバルトグリーンの光が発せられると、橋の上で往生していた人々がホールド状態で浮かび上がりました。シルバーのサイコキネシスです。ホールドし損なった人々はソニックが次々と抱きかかえ、安全な場所へと搬送してカバーします。

数十人もの人々をホールドしたシルバーも、そのままゆっくりと移動させて橋の上からの退避を終えました。

揺れはまだ収まっていませんが、とにかく目前の危機は回避できたようです。ソニックは楽勝だと言わんばかりにシルバーに向かってサムズアップ。シルバーも肩で息をしながらそれにこたえ、額の汗をぬぐいます。

「Good work シルバー! 橋は落ちるかもしれないけど、もう大丈夫だ!」

ソニックがそう言い、シルバーもそう思いかけた......

その時です。

橋の上に浮かぶシルバーは、はるか眼下に恐ろしい現実を目にしました。

この橋のはるか下の渓流で、ツアーの遊覧船が動きを止めているのです。故障か座礁か......とにかくこのまま橋が落ちれば幾十もの石材が遊覧船を直撃することになります。

地震はいまだ収まりそうにありません。そして間の悪いことにその次の瞬間、ひときわ大きな横揺れが橋を襲いました。

< ガゴンッ!>

あらゆる者に絶望を思い起こさせる、大きな瓦解音が1つ。

直後、橋は細かい振動を呼び声に垂直に崩れ落ちたのです......!

<ゴドドドドドド......!>

「うわぁぁぁぁ!」


橋の石材と共に、川への落下を覚悟したソニックでしたが、ソニックはまたあの「覚えのある感じ」に包まれます。

ソニックはいまだシルバーからそう離れていない中空で、シルバーのサイコキネシスによるホールドで浮かんでいたのです。

......橋のすべての石材とともに。

何トン......いや、何十トンあるかもわからない、この橋の重量を、シルバーがホールドしていたのです。

サイコキネシスで強い負荷に耐えるということがどれほどのことなのか、それは誰にもわかりません。ですがシルバーが筆舌につくせぬ苦痛を伴って精神の集中を強いられていることは明らかです。必死の形相で歯を食いしばり、ぶるぶると震えながらソニックに何かを伝えようとするシルバー。

「長......、もたない......たのむ......!」
「頼むって、何を!?」

「たのむ......!」
「......!」

ホールドされた「橋」は小刻みに上下を繰り返し、そのたびにシルバーに苦悶の表情が走るのが見えます。これ以上の会話はシルバーの思いを無駄にするだけです。覚悟を決めたソニックは不敵に笑うと、周囲を見回しながらシルバーにこう言いました。

「OKシルバー。ちょっとだけ待っててくれ、オレが......」

「オレがオマエのヒーローになってやる!」

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キャラクター紹介

→ソニック・ザ・ヘッジホッグ
→シルバー・ザ・ヘッジホッグ