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ソニック & シルバー 後編

白霧立ち込めるキングダムバレーに、息の詰まるような恐怖が増大していきます。

崩落した石橋が遊覧船に降り注ぐ絶望への時間を、ひとりシルバーが押しとどめているのです。

彼のサイコキネシスで崩落の一瞬後で静止した石材の上を跳び渡りながら、ソニックは猛スピードで思案を巡らせていました。

時間がありません。

見るに、石橋のパーツは1つも壊れてはおらず、ただ「分解」しているだけなのがわかります。地震によるたわみによってバラバラになって下から崩落したのでしょう。そう言えばシルバーが、この橋は石材の組み合わせと自重だけで架かっていると言っていたなと、ソニックは思い出します。

であれば、あるいは......!

やれるかどうか、ではありません。やらなくてはならないのです。ひりつくような焦燥を決意に変え、ソニックはシルバーに向かって叫びました。

「オレがこの橋を直す!後でちょっとだけ持ち上げて、降ろしてくれ!」

それを聞いて一瞬ギクリと体をこわばらせたシルバーでしたが、無言のままかすかにうなづきます。もはや返事をする余裕もないのです。......ですがその顔には不敵な笑みが浮かんでいました。

「(ああ、やってみせるさ。あんたがそう言うならな)」


幸いなことに、大きく位置関係を変えたパーツは無いようです。それだけシルバーの反応が速かったということでしょう。

ソニックは浮かんだ石材を体当たりで打ち飛ばしてはめ込み、落下した分を押し上げて平衡バランスを取りながら、橋をもとの形に近づけていきます。

......時折り、サイコキネシスのホールドが一瞬ゆるんで石材に振動が走ります。シルバーの負担がすでに限界に近いことを肌で感じながら、ソニックは作業を続けるのでした。

そして、10数秒のち......

ソニックは橋をほぼ元通りに成型し終えていました。崩落したとは言っても、完全に分解していたのは負荷が集中した中央部分のみだったことが幸いしたのです。

ですがソニックは焦っていました。

あと1つ、石材のパーツが見当たらないのです。

分解した時の衝撃で、どこかに飛ばされてしまったのでしょうか。たった1つのパーツなのですが、それがよりによって、先程シルバーが嬉々として説明していたあの「要石」の1つだったのでした。

周囲を飛び回って探す中、1秒、2秒と身を切るように時間が過ぎていきます。

......そして永遠とも思われるような数秒の後、ソニックはふと視界の中に、この場に不自然なキラリとする光に気付きました。眼下の光を追い、尖塔のバルコニーの茂みに寄って見てみれば......それはカオスエメラルドです。

そういえば元々ここへは、これを探しに来ていたのでした。七色の流れ星として飛んできたカオスエメラルドは、この橋の上に落ちていたということなのでしょう。

そしてそのカオスエメラルドのわきには...... 探していたあの「要石」があったのです......!

「カオスエメラルド」......「想い」にこたえ、奇跡を起こす神秘の秘石。まさに今ここで、ソニックとこの危機に臨む全ての人々の想いにこたえ、奇跡は起きたのでした。

バルコニーから最後のパーツを打ち飛ばし、それがうまい位置にはまるのを見届けたソニックは、真剣な面持ちのまま安堵(あんど)のため息をつきます...... これで修理完了です。

まだ石材パーツごとに大きくスキマが空いていますが、持ち上げて橋の両端に架けることができれば、後は自重でスキマ無く強固に組みあがることでしょう。

全体を見やって問題無しと見たソニックはシルバーに向かって叫びます。

「OKだシルバー!......後は頼んだぜ!」

目をつぶって耐えていたシルバーはできる限りの笑顔でこたえると、決意の表情でカッと目を見開きました。


「うおおおおおっ!」

ソニックと一緒に、橋の両端へ避難した人々の声援と、遊覧船の甲板でこちらを見上げて固唾を飲む人々の祈りを受け、シルバーが全力の上の全力を振りしぼります。

「うううう......っ!」

......ですがもうすでに力は出し尽くしているのです。今までホールドするだけでも精いっぱいだったのに、ここからさらに上に持ち上げることなど、どうしてできるものでしょうか。

あと1メートル......いや50センチ持ち上げれば、崩れた橋は元の場所に架かります。ですがいくら力を込めても、1センチも押し上げることができません......

「く、くっそぉぉ......!」

空中を手でわし掴みにしてすがるような姿勢でシルバーは死力を尽くしますが、「橋」は、持ち上がるどころかぶるぶると震えながら、じわじわと少しずつ高度を落とし始めるのでした。

「ダメなのか......! オレがやらなきゃいけないのに......!」

苦悶の中、シルバーはついに首を垂(た)れ、うつむきかけますが......

眼下の遊覧船とその甲板でこちらを見つめる人々の顔を目にした瞬間、シルバーの心に新たな炎が燃え上がったのでした。

「ちっくしょぉ......ッ!」

......最後の気力で「橋」の降下をどうにか押しとどめたシルバーは、心の叫びを爆発させます。

「オレは、ヒーローなんかじゃない......!」

「でも、たくさんの笑顔を守るのがヒーローだっていうんなら......」

「......オレは、ヒーローになりたい!!」

その時

先程ソニックが拾ったカオスエメラルドが、強烈な白銀の光を放ち始めました。

「......!?」

その光はシルバーと「橋」を包み込み、周囲に拡散してキラキラとこの一角を光の洪水で満たします。一瞬あっけにとられたシルバーでしたが、彼は今この瞬間、大きな力が自分に寄り添っているのを感じます。

シルバーの想いに、カオスエメラルドが応えたのです。

「ハァァァッ!!」

シルバーがその力と共に、最後の力で気合を込めると......

<ガタッ......ガタガタガタ......ッ!>

はたして「橋」は短く振動するやいなや 1メートルほども持ち上がり、次の瞬間には落下...... みごとに元の場所に差し架かったのです。

<ズズズゥゥゥゥン......>

「よみがえりの橋」の産声が、キングダムバレーの谷間にこだましていきました。


午後の陽気に霧が追いやられ、雲間からのどかな日差しが射すキングダムバレー。 その空を見上げながらソニックとシルバーは「よみがえりの橋」を見下ろす城壁の上でくつろいでいました。

終わってみれば、この地震騒ぎでのケガ人はゼロ。遊覧船も無事に回収されて万事無事という大団円。 大勢の観衆にもみくちゃにされてここに逃げてきた2人は、心地よい達成感の余韻にひたっていました。

「それにしても......いいのか?オレが持ってて」

今や完全に力を失い、黒ずんでしまったあのカオスエメラルドを片手でお手玉しながら、ソニックがシルバーに問いかけます。

「ああ。この石についちゃ、あんたの方がくわしい。預けておけば直してくれたりするんだろう?」

シャドウと同じようなことを言うなと苦笑しながら、ソニックはカオスエメラルドを懐にしまいます。

さて、先ほどソレアナ公国の役人から聞いた話によると、この橋は今後立ち入り禁止にして、補修後も非公開にするとのことでした。

「ま、すぐ公開されて観光名所にはなるけどな。ツアーとかは知らないけど」

未来を知っているシルバーは、そう言って笑います。

「Hey, シルバー......?」

その笑顔を見ながらふと何かが気になったソニックは、シルバーに神妙な顔で問いかけました。

「もしかして今日のこと......オレが来てモロモロ無事に解決することも含めて、全部最初から知ってたたのか?」
「まさか!そんなことまで知ってるわけないさ! でも......」

笑いながら即座に否定したシルバーでしたが、真摯(しんし)な表情に戻るとこう続けます。

「今朝、あんたを見つけた瞬間、もう後は大丈夫だってわかったさ」

あいかわらずのまっすぐな物言いに、またしても優しい苦笑をもらすソニック。

「OK わかった、わかったよ。ヒーローだけど、何でも知ってるわけじゃない未来人のシルバー?」

笑う2人がそよぐ風に空を見上げると、キングダムバレーの平和な空に七色の虹の橋がいくつも、いくつも架かっていくのが見えたのでした......★

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キャラクター紹介

→ソニック・ザ・ヘッジホッグ
→シルバー・ザ・ヘッジホッグ