ソニック & ブレイズ 後編
サンゴと水晶の洞窟「コーラルケイヴ」の最深部へと続く、暗く長い階段通路。態度を急変させて通路を駆け降りていったブレイズを追いかけようとしたソニックでしたが、その時......
テイルスから借りて持って来ていた「エネルギー検知器」が激しい検知音を上げ、ソニックは足を止めました。
神秘的な洞窟に似合わない電子音...... 検知器の表示を見たソニックは、一瞬思案のち、ブレイズとは逆方向に向かって走り出します。
「しょうがない。ブレイズが独りでやるために協力してやるとするか」
一方、ブレイズは激しい怒りの炎に身を包み、猛烈なスピードで通路を駆け降りていました。
......この先の最深部の祭壇には、荒ぶる火山を沈め、星の深淵の力にも通じると伝えられる、ソル皇国の国宝「宝玉の杖」が安置されているのですが、ここに賊が入ったことは間違いありません。
その杖はいく度かの収奪・奪還を経た後は王城で保管されていたのですが、今は元々の安置場所だったコーラルケイヴ最奥部に移送され、厳重警備のもと管理されていたはずでしたが......それが今や、この関門にいたはずの兵士は駆逐され、祭壇のある奥の空洞は海賊ロボットであふれかえっていたのでした。
皇家の聖地が荒らされ、国宝がおびやかされ、臣下の兵までもが傷つけられた......
ブレイズは彼女の誇りにかけても、自らの手で兵を救い、賊を討ち、そのけじめを付けたいと思ったのです。
そして何度目かのアップダウン通路の曲がり角を経て、その行き止まりに広がる直径50メートルほどの空洞の祭壇でブレイズが見た物は......
大量の海賊ロボットに囲まれながら、宝玉の杖を中心に武器と盾を構え、円陣を組んで敵の軍勢と戦う、精鋭コアラの護衛兵たちの姿でした。
彼らは海賊ロボットの襲撃で関門撤退を余儀なくされながらも「宝玉の杖」防衛戦を決意。しぶとく粘ってひたすら外からの助けを待っていたのです...... ですが、その限界も近づいていました。
そしていよいよ彼らがあきらめかけた、その時......
紅の稲妻が駆け抜け、その炎がロボットの軍勢の一角を削りとり、巻き上げます。
<< ドゴォォォ......ッ! >>
......その爆炎を払いのけて兵たちの前に歩み出てきたのは、まさしくブレイズです。
「ブ、ブレイズさま!?」
「よく頑張ったな。 だが、もう少し働いてもらうぞ?」
言うや否や炎を身にまとい、敵陣に飛び込んでいきます。それに鼓舞されて陣形を整え、杖を守りながら盛り返す護衛兵たち。
ブレイズは、彼らの無事を喜んだのはもちろんですが、彼らの働きを誇りに思いました。
......そして護衛兵の面々も、仲間を守りながら常に最前線で戦う、ブレイズの凛々しくも美しい姿を目にして改めて忠誠を心に誓い、以降いつまでもそれを曇らせることはなかったのです。
しばしの戦闘の後......
ブレイズは大きな誤算をしていたことに気付きました。 海賊ロボットの数が多すぎて一向に減らないのです。
そこへさらに大規模な敵の増援......!関門からの階段からなだれ込んでくる海賊ロボットの軍団が見えると、護衛兵の何人かはついに地にひざをつきます。
ブレイズたちの旗印とも言うべき宝玉の杖が傾き、もうだめかと思った瞬間......!
「Hey! ズイブンとにぎやかにやってるじゃないか!」
階段を猛スピードで走り降りて来る青い旋風が、海賊ロボットを弾き飛ばしながらブレイズたちの元へ突っ込んできます。
そしてブレイズたちの周りを高速スピンダッシュで一周し、周囲のロボットを弾き飛ばすとそのまま着地して、 頭をかきながらこう言ったのでした。
「Sorry!今こっちに来ちゃった援軍は、オレが倒しきれなかったヤツらなんだ。悪いけどオレの手助けをしてくれないか?」
「ソニック......!」
ソニックは、エネルギー検知器で敵の援軍がコーラルケイヴのあちこちから集結してきているのを知り、その援軍が祭壇に来る前に撃破し、数減らしをしてくれていたのです。
いつもの涼し気な表情のソニックではありましたが、シューズとグローブはロボットの爆炎であちこち汚れており、彼が苛烈な戦いを独りで続けていたことがわかります。
......どんなにうまく独りでやり遂げているつもりでも、得てして、どこかで誰かに助けてもらっているものです。それに気づいたブレイズは、熱情にまかせてソニックを疎外したことを、少し後悔しました。
つっけんどんな態度を装いながら、ブレイズはソニックにこう返します。
「し、仕方ないヤツだ。手伝ってやろう。だが......」
無風のはずの洞窟内で、熱い風がひとそよぎしました。
「......私の方も、手伝ってくれないか?」
その声を合図にしたかのように、それまで様子をうかがっていた海賊ロボットたちが一斉にとびかかってきます。
そしてそれを受けたソニックはニヤリとすると、一気に飛び出し、ブレイズの目の前でうやうやしくお辞儀をして、こう言いました。
「Shall we dance?」
その直後、ブレイズの周囲を猛スピードのスピンダッシュで回転し始め、大きな竜巻を巻き起こします。
ソニックの走る青い軌跡と、杖が飛ばされない様に必死につかまって抑える護衛兵を見て、ついに笑みを漏らしたブレイズがそれに応えます。
「仕方のないヤツだ......」
両の手にひときわ大きな炎を宿したブレイズが竜巻の中で激しく舞うと、巨大な熱風の竜巻......ファイヤートルネードが巻き起こり、洞窟の空洞内をさらっていきます。
<< ゴゴゴォォーーッ! >>
そしてほんの10数秒のち......敵軍の中に動く者は、何一つ無くなっていたのでした。
敵の増援が完全に止まり......
護衛兵を城に返しがてら「宝玉の杖」を城に戻すよう命じ、一息ついたブレイズはソニックに改めて礼を言いました。
それに応えようとしたソニックでしたが......その時2人はお互い、手持ちのエメラルドに異変が起きていることに気付きます。
ブレイズの7つのソルエメラルドが輝きを増し、ソニックの持つ、力を失って黒ずんだままの2つのカオスエメラルドにその光が吸い込まれていくのです。
「「............!?」」
驚く2人が見守る中......数分のちには、この2つのカオスエメラルドは力を取り戻し、かつての美しい光を発するようになったのでした。これでソニックの持つ7つのエメラルドは全て復活したことになります...... ですが、なぜ......?
「ううむ......」
ブレイズが推測します。
「まあ、これもエメラルドの導きというやつだろう。何か理由や運命とかいうものなのかもしれないし、単なる気まぐれかもしれない。身を任せるしかないさ」
「オマエにしちゃ、いい加減な物言いだな」
「私はただエメラルドを信じているだけだ」
「そんなもんかねえ......」
と話をしていると、ソニックのカオスエメラルドが7つそろって光を発し始めます...... それはより強い光で、ゆっくりとソニックの体を包んでいきました。
両の手のひらを横に広げて、肩をすくめて見せるソニック。
「Huh, 用が済んだから もう帰れってことみたいだぜ?」
「そのようだな......」
苦笑しながらも、これもまたソニックらしいと心の中で納得したブレイズが『達者でな、ソニック』と言おうと......
したその瞬間です。
天井から、一体の巨体ロボットが、轟音を伴って2人の目の前に降り立ちました。
<< ズズゥゥン......! >>
赤い鋼鉄のボディに、ドクロの篭手(こて)......
間違いありません、以前に倒したはずの海賊ロボットの親玉「ウィスカー」の成れの果てです。
頭部を失い思考はおぼつかないようですが...... 第一命令としてプログラミングされた「宝玉の杖の奪取」だけを行動のよすがに、今なお洞窟をさまよっていたのです......
思えば、ここに海賊ロボットがあんなに集結すること自体おかしな話でした。このウィスカーがあれらを呼び寄せていたのであれば合点がいきます。 すぐさま戦闘態勢に入るソニックとブレイズ。
「OK! じゃあ、コイツを片付けてスッキリしてから、あっちに帰るとするかな?」
カオスエメラルドの光に半ば包まれながら飛びかかろうとしたソニックでしたが、それをブレイズが優しく手で制します。
「いや、こんなくたばり損ない、私一人で充分だ。お前は安心して帰れ」
ゆっくり歩いてウィスカーに近づきつつ、その攻撃を涼し気な表情でかわしながらこう続けました。
「お前の言う "協力" は確かに強いものだが...... 己が身ひとつでやれることはやはり独力でやるべきだ。その方が......」
さらになぐりかかってきたウィスカーの左拳をブレイズの蹴りが一閃、弾き飛ばします。ひるむウィスカー。
「......よい土産話を、友にすることができるだろう?」
ヤレヤレと鼻をこすり、まったくコイツはと苦笑すると、ソニックはラフな挨拶を送ります。
「OK!じゃあ......」
「ああ」
そしてウィスカーが最期の一撃とブレイズに猛突進を仕掛け、それにブレイズがカウンターを合わせるのが見えた......と思ったところで、ソニックは完全に七色の光に包まれ、元の世界に運ばれたのでした......。
カオスエメラルドの光がおさまると、ソニックは元いたトゥインクルパークにあるアトラクション......「トゥインクルコースター」の暗い洞窟エリアに戻っていました。
そう、ここで7つのカオスエメラルドが一堂に会したことが、ソニックをブレイズのいる世界にいざなったきっかけだったのです。
ゆっくりと発光がおさまっていくカオスエメラルドを見守りながら、ソニックは今日のことを思い返します。
「ったくアイツ、自分だけ最後にイイこと言ってまとめやがって!」
......さて、ここに置いてあったカオスエメラルドは、今はこのトゥインクルコースターに乗る客たちにとって、大切なおまじないの「ご神体」です。
ブレイズのソルエメラルドで復活したそれを元の場所に戻そうとしたソニックは、それがおき火のように静かに熱を帯びているのに気付きました。
それをひとなでしたソニックは、何だかその場にいないブレイズに激励をされたような気がして、思わずニヤリとしてしまいます。
「土産話を楽しみにしてるぜ、ブレイズ。
......こっちもスゴいのを仕入れておくからな!」
と言うとソニックは、外光が射し込む洞窟の出口扉を勢いよく押し開けると、まだ見ぬ冒険が待つまばゆい世界の中へ、意気揚々と走り出していったのでした。