スーパーソニック & Dr.エッグマン 前編
ある日、全世界同時に、ごく小さいながらも奇妙な地震が発生しました。
そして実際それは、地震ですらなかったのです。「星」その物が一瞬、ほんのちょっとだけ震えたのでした。 ......世界中が、言いようのない不安の渦に飲み込まれました。
「ホーッホッホ! ワシの粋なデモンストレーション、楽しんでもらえたかな?」
宇宙からの強力な電波が世界中の放送網をジャックし、世界中のラジオ、テレビから高揚したDr.エッグマンの声が響き渡ります。
「スペースコロニー・アークに放置されとった『重力シリンダー』を、何万個と複製してこの星を一周させてやったゾイ! この巨大なシステムで重力干渉をすれば、この星の自転速度はワシの思うがまま......!さっきのようなイタズラもし放題というわけじゃ」
あまりに突然の出来事...... 目には見えない高空に浮かぶ兵器におびえ、みな空を見上げて固唾をのみます。
「......これ以上コワい目にあいたくなかったら、全世界はワシに降伏し、この星のすべてをワシに差し出すのじゃ! ホーッホッホッホ......!」
世界は騒然となりました。
『重力シリンダー』は、緑色に発光する直径3m・長さ10mほどの筒状をした、人工重力を発生させる装置です。
かつてはスペースコロニー・アークの運搬重機として使われていましたが、アークが放棄された後はそのまま宇宙に放置されていたのでした...... それにエッグマンが目を付けたというわけです。
スペースコロニー・アークを遠目に臨む宇宙空間で、エッグモービルの中から重力シリンダーをうっとりした表情で眺めつつエッグマンは言葉をつづけました。
「ブラックボックスだらけのこの装置を、秘密裏に短期間でこれだけ準備するとはまさに電撃作戦! ......どれ、もうちょっとだけ、イタズラしてみようかの?」
そう言ってエッグマンが、装置の作動ボタンを押そうとしたその時です。
「......なーにが電撃作戦だ!カオスエメラルドの復活に間に合わなかったじゃないか!」
通信機に割り込んできた、聞き覚えのあるあの声にエッグマンが振り返ると、その真横を金色の光の筋が一瞬で通り抜けます。 そして次の瞬間には、目の前にあった重力シリンダーの列が、一瞬にして粉砕、爆発四散していたのでした......。
「これでもう、おイタはできないよな エッグマン?」
スーパーソニックとなったソニックは、星の周囲を猛スピードで飛行して重力シリンダーの「輪」を端から端まで貫き、その全てをものの数秒で破壊してしまったのです。
これにはエッグマンも驚愕を隠せませんでした。
「ス......スーパーソニックじゃと!? カオスエメラルドの復活にはまだ時間がかかるはずでは......!?」 「ま、色々あってね。......さあ、ネタも割れたことだし、今回はもうあきらめて退散したらどうだ?」
周囲に数えるほどしかなくなった重力シリンダーを見ながら、ソニックはエッグマンに降参をうながします。......ですが、エッグマンはまだ終わっていませんでした。
「グフフフ......バカめ。これぐらいで終わるワシではないわ! これを見るがよい!......ポチっとな!」
エッグマンが大仰なストロークでボタンを押すと......
2人の頭上に浮かぶ、スペースコロニー・アークの巨大な主砲『エクリプスキャノン』がゆっくりと起動を始め、何かの光信号を発しながら地表に向けて狙いをさだめました。
「Wait ! まさか...!」 「アークの中央制御室には我が精鋭ロボット部隊を送り込み、すでに占拠済みじゃ! 星をもうがつその威力、エネルギー充填率は0.5%といったところじゃが、町一つ吹っ飛ばす威力はあるじゃろう」
真剣な面持ちになったソニックに、さらに地上からテイルスの緊急通信が入ります。
「大変だよソニック!世界中に放置されていたエッグマンの野良ロボットが、一斉に暴れ出したんだ!すごい数だよ!」 「どうしたテイ......」
<< ぶおんっ! >>
ソニックがそこまで言った瞬間、ソニックを目がけて何か、恐ろしい一撃が振り下ろされました。かろうじてかわしたものの不可解な力に引っ張られ、近くに浮いていた重力シリンダーの残骸に、しこたま体を打ち付けます。
「ぐ......っ!?」 「ホーッホッホ! どこを見ておるんじゃソニック!」
いつの間にか、エッグモービルに追加兵装のアタッチメントを装着したエッグマンが、ソニックの手前上空に浮遊していました。 エッグモービルの下部からは、クサリでつながれた直径5mほどの超重量の鉄球がぶら下がっています。
そしてさらにエッグモービルから紫色のイカヅチがほとばしると、その半径100mほどの球形の空間が薄紫色のエネルギーフィールドに包まれたのでした。
「そんなにオレに構ってもらいたいのか、エッグマン?」
軽口をたたきながらも、ソニックはこの新たな脅威に注意をはらってエッグマンと対峙します。
「フン! ......重力シリンダーの輪っかは、ここでキサマを倒した後ゆっくり復旧すればよいワイ。 宇宙からはエクリプスキャノン、地上ではワシの無数の伏兵が総攻撃...... この星が我が手中に収まっていくのを眼下に見ながら、絶望の内にワシに倒されるがよい!」
そう言うとエッグマンは新兵器の出力を上げ、鉄球をゆっくりと回転させ始めました。
重力シリンダーのパーツをオーバークロック転用して作り上げた、半径10mに10Gもの局地重力を発生させる、超重量の大鉄球...... これもまたブラックボックス技術の慣性制御により、すさまじい速度でソニックに襲いかかります。
「『超・特殊重力打撃捕獲鉄球:エッグ・グラビトン』! 重力のトリモチでキサマを捕まえ、そのままぺしゃんこに叩き潰してくれるわ!」
狂気の重力が荒れ狂う漆黒の宇宙空間で、2人の最終バトルが繰り広げられたのでした。
(つづく)