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異世界大喜利 2023年12月 後編【スーパーソニックとエッグマンは何を......?】

高空を凄まじい速度で飛翔する一筋の電光と、さらにそれを追う閃光。

2つの光が交差するたびにそれは猛烈に反発しあい、激しい火花を散らして地表を照らします。 肉薄しながらも互いを拒絶しあうそれらは、きわめて好戦的なスピード勝負を幾刹那のあいだ繰り広げ......

やがて2つの光は大きく距離をとったかと思うと、示し合わせたようなタイミングで折れるようなUターンから猛加速。 互いに一歩も譲らぬ正面衝突で、昼夜が分からなくなるほどの閃光が爆発音と共に周囲を照らします。

そして数秒の沈黙の後、雲中から現れた光り輝く2つの人影......

それはカオスエメラルドによって無敵の力を得たスーパーソニックと...... それに匹敵するほどの力を有した、光人エッグマンの姿でした。

ぜいぜいと肩で息をしているエッグマンを見てヒュウと口笛を吹きながら、からかい半分でソニックが賛辞を送ります。

「驚いたなエッグマン! 年には勝てないみたいだけどな?」
「や、やかましい! ワシの力はこんなモンではないわ、このバカネズミが!」

呼吸を整えて急降下するエッグマンと、それを追うソニック......!

「何をする気か知らないが......」

ソニックが軽口を叩こうとしたその瞬間。 エッグマンが水面スレスレまで降下したところでUターンしたかと思うと、入れ替わるように水底から巨大な影がせり上がりました。

<< ゴォオ!!>>

突如水面から放たれた猛烈なエネルギーの咆哮に、ソニックは大きくバランスを崩します。 かすりざまにかろうじて攻撃をかわしたソニックでしたが、スーパー化状態でなかったら消し飛んでいたことでしょう。

「パーフェクトカオスまで再現しやがったか......!」

かつてステーションスクエアを水没させた暴走する災厄。 見境なく全てを滅ぼそうとした「破壊神」が、山をも穿つエネルギーブレスでさらにソニックを襲います。エッグマンは上機嫌でまくしたてました。

「ここはワシがカオスを従え、全てが上手くいった世界! 貴様を倒し、この異世界を『正』とすることで『異世界征服』は完成するのじゃ!」

迫りくる咆哮をスイスイと避けるソニックでしたが、エッグマンの手の内はこれだけではありません。 倒れ込むビル、せりあがる岩、そして押し寄せる高波...... 周囲にある物すべてが、エッグマンの号令でソニックを狙います。

「ホーッホッホ!これでどうじゃ! ホレ! ホレホレ!」

さらに追い打ちをかけるように、周囲のビル群がエッグマンの号令で次々とパーフェクトカオスへと変貌。 たちまちソニックを取り囲みます。

「What !?」

気が付けばその全ての大きな口が、そのあぎとにエネルギーをみなぎらせ、ソニックは絶体絶命の状況に追い込まれてしまっていたのでした。

「これでおわりじゃ!」

<< ゴォオ!!>>


咆哮の集中砲火。

そのエネルギーは、周囲数百メートルの海水をも蒸発させ、水蒸気煙を天高く噴き上げましたが......

やがてその煙が風に消えると、そこには無傷で空に静止する、金色のハリネズミの姿がありました。

「......効かないさ!」
「バカな!? もしやスーパーソニックの力が異世界化の中和を.....? いや、まさか......!?」

動揺するエッグマンに、ソニックは胸に手を当てながら答えます。

「エッグマン。 そいつはオレの知ってるカオスじゃない、ニセモノだ。あの時のあいつには『憎しみ』だったかもしれないけど『ハート』があった。でもこのカオスには何もない」
「......!」
「その力だって、ただエネルギーを集めただけのニセモノだ。 異世界でも本質は変わらなかったみんなの気持ちをもらったオレとは全然違う。 だから...... ぜんぜん効かないのさ!」

<< バァァン!!>>

そして、掛け声と共にソニックが金色のオーラを一気に拡大させると、その光は周囲にいたパーフェクトカオスの一団をかき消してしまったのでした。

「お、おのれソニック......! じゃがこの力がある限り、ワシだってカオスと異世界をいくらでも作り出せる! いずれ屈服するのは貴様の方じゃ!」

カオスの軍勢が次々と蘇り、エッグフィールドもじわじわと回復していきます。 どうにか優勢を取り戻したソニックと、反撃の準備を固めるエッグマンとの間に見えない火花が散り始めた、その次の瞬間......!

<< ピピピ!>>

静寂を破ってテイルスからの緊急通信が入り、ハッとしたソニックとエッグマンの双方がその音に聞き耳を立てます。

<戦闘中のエッグマンを分析して弱点が分かったよ! 胸の光るコアパーツ!あれが認知摩擦エネルギーの制御装置になってるんだ!>
「ち、ちが...... おのれ余計なことを!」
「サンキュー、テイルス! 助かったぜ!」

胸を手で覆い、慌てて高空へと飛び上がるエッグマンを、ソニックが猛追します。

必死の逃走を続けるエッグマンが手を掲げると、周囲は一瞬で宇宙空間に異世界化。 スペースコロニー・アークに搭載された、星をも穿つ光学兵器「エクリプスキャノン」がソニックに砲口を向け、その膨大なエネルギーがソニックを襲いますが......

「効かないって言ったろ!」

<< バァァン!!>>

「ひいいい!」

ソニックが一喝して金色のオーラを発すると、異世界は雲散霧消。ニセモノの宇宙も瓦解します。 打つ手無しに逃げ出すエッグマンは、それでも無駄な抵抗と知ってか知らずか、苦し紛れに延々と異世界を作り出し続けるのでした。

......ダークガイアのパワーを使い、新生エッグマンランドを完成させた世界。
......かしずく六鬼衆を従えて、惑星の生命エネルギーで究極兵器を完成させた世界。
......暴走したマザー・ウィスプをも支配下に置き、世界中の生物を洗脳した世界。

ですがそれらエッグマンの夢の異世界全ては、スーパーソニックの輝きによって瞬時にかき消されていきます。

「諦めろエッグマン! オマエのくだらない『異世界征服』とやらもここまでだ!」
「うるさいわ! ワシの夢をことごとく消し去りおって!」

そうこう言っている内に逃げた先は、高々と壁のそびえる袋小路......

「ええい、聞け! ソニック! この無知蒙昧な小動物よ!」

追い詰められたエッグマンは、ここぞとばかりの大演説で、危機を脱しようとします。

「確かに! ワシを倒せば、異世界化は消えるじゃろう。この楽しい世界もろともな! じゃが、本当にそれで良いのか?」
「!?」

ソニックの様子に一瞬の躊躇を見たエッグマンは、勢いづいて更にまくし立てました。

「そもそもワシがしたことは、悪いことなのか? 異世界の数々はどれも楽しかったじゃろ? 何も壊してはおらん! 本来の姿を歪めてもおらん!」

確かに...... そうだったようにも思えます。

その完璧なパフォーマンスに誰もが熱狂したライブステージ。 悩める乙女を導くユニークな占いの館。 異種族を繋いだ暖かいピザ屋...... どれもが魅力あふれるかけがえのない世界。 そこで暮らす人々は幸福だったのです。

「ワシの何が悪いんじゃ? 異世界の数々には罪はなかろう? 貴様のどこに、あの幸せな世界を消し去る権利があるというのじゃ?」

......数秒の沈黙。

苦し紛れの方便が効いた風なのを幸いに、胸のコアにエネルギーをため、不意打ちのタイミングをはかるエッグマンでしたが......

<だまされちゃダメだよ、ソニック!>

そこへ、またしてもテイルスの緊急通信が入ります。

<地上のプラントを調べてわかったんだけど、あれはエネルギーを使って今ある各地の異世界を、少しずつエッグマンの都合の良い世界に変えていくための施設だったんだ!>
「ギクゥ!」

動揺するエッグマンを、テイルスの声がさらに糾弾します。

<さっきから調子のいいことばかり言って、結局みんなの夢の上前をはねてただけじゃないか!>
「ええい! うるさいわ!」

破れかぶれにソニックに殴り掛かったエッグマンでしたが、ヒラリとかわされ、逆に渾身の体当たりを食らわせられてしまいます。

<< ドッゴォン!>>

「ぎゃっ!」
「悪いことはしてない、だって......?」

吹き飛ばされ、ガレキの中からようやく起き上がって来たエッグマンに向かい、ソニックはついに口を開きます。

「あの異世界は、誰かの心の中にあったものだ。 オマエはそれを勝手に外に引っ張り出して晒したあげく、無理やり星に押しつけた! 」

そして体全体に力をみなぎらせて距離を詰めたソニックは、攻撃態勢を取りながらこう続けたのでした。

「オレはそれを元に戻して、星を苦しみから救う! ......それだけだ!」

「ままま、待てソニック! は、話し合おうではないか! これを見たら気が変わるかもしれんぞ!?」

ソニックの本気の攻撃を予感したエッグマンは、慌てて両手で制しながら、性懲りもなくまたも面前に異世界を生み出します。

それは...... 平和そのもののグリーンヒル。

美しい自然と光に満ち溢れ、ゴキゲンなランニングコースも見える、ソニックが良く見知った最高のロケーションですが......

その世界のその向こうまで目をやると、あらゆる構築物が美味しそうなチリドッグになっており、海や川がチリドッグで埋め尽くされた、異様な光景が広がっていたのでした。

「どうじゃ! 貴様のだーいすきな世界...... 気に入ったじゃろ? ワシにこの世界を任せてくれれば、こんなものはいくらでも......」

<< バァァン!!>>

ソニックがもみ手ですり寄るエッグマンをその異世界ごと一蹴すると、その景色は一瞬でかき消されてしまいます。

「な、なぜじゃああ!? 何が気に入らんのじゃ!?」

虚空を転がり落ちるエッグマンに狙いを定め、全身に金色のオーラをみなぎらせて光の矢となったソニックが、エッグマンに迫ります......!

「そもそもセンスが悪すぎるのが1つ! それとなエッグマン、オレは......!」
「やめろぉぉ!」

<< パキィィン...!>>

エッグマンの目の前を金色の閃光が駆け抜けると、胸のコアパーツが砕け散ります。 あるはずの物が無くなった胸に手を当て、大口を開けて慌てふためくエッグマンを背に、ソニックはこう続けたのでした。

「押し付けられた楽園なんて、まっぴらゴメンなのさ!」

<< ドゴォォン!!>>

「おのれぇソニック! 覚えとれよぉ~!」

コアの破壊で行き場を失くしたエネルギーが大爆発。エッグマンはきりもみ回転しながら空のかなたへと吹き飛んでいきます。

異常が取り除かれ、周囲の世界がゆっくりと元の姿を取り戻していく様子を見たソニックは、安堵と共に皆のいる場所へと帰っていったのでした。


後日。

ミスティックルーイン山中の人気ピザ店「CHAO's Diner」は、本日貸し切りの満員御礼。

未だ異世界化が残るこのお店に記憶を取り戻したソニックの仲間たちが集まり、しばしの歓談を楽しんでいました。

記憶は戻っても、いでたちは異世界化で変わった姿のまま。 お姫様衣装がすっかり板についてきたテイルスが、恥ずかしがりながらも集まった面々にパーティーの趣旨説明をします。

「異世界化の原因は壊したけど、なんたって惑星規模での出来事だからね。 元に戻るにはまだ時間がかかるんだ。 だから異世界化の影響が残ってる今のうちに、みんなで会って遊ぼうと思ってね!」
「そうだな。 こんな格好のみんなに会う機会なんてそうそうないだろうし、みんな今日は楽しもうぜ!」

ソニックの呼びかけを合図に、テーブルのそこかしこで、今回の異世界語りに花が咲きました。

「さあ、遠慮なく食べてね! どんどん焼くわよ!」
「......」

ティカルとカオスの厨房はフル回転。 美味しい匂いが会場を満たします。

「......いい店だな」

ご相伴にあずかってご機嫌のチャオたちとナックルズ族の常連客たちに交じって、特製のフルーツピザを頬張りながらナックルズがつぶやきます。

ピザ窯のすぐ横のテーブルでは、ベクターとビッグの間で大はしゃぎをするクリームの姿がありました。

お店のお手伝いをしていたはずのクリームでしたが、いつのまにか2人の専属のウエイトレスになって嬉々として厨房とテーブルを往復。 あこがれの「ベクターマン」と大好きな「まふぃあのどん」に、焼きたてのピザを運びます。

「こいつはうめぇ! 腹の中にどんどん入ってくらぁ!」
「うーん。 おいしいぞぉ~」
「ちゃんとごはんを食べるのはいいことデス! ママも言ってマシタ!」

同席しているヴァニラも笑顔でクリームを見守ります。

「......クリーム、次のピザが焼けている。 運搬を」

厨房でピザの調理を手伝っているのはジーメルです。 鋼鉄の手で窯から直接ピザを取り出し、次々とお皿に乗せていきます。 やがてクリームがやってくると、やけどをしないように、そうっとそのひと皿をクリームの手に乗せて彼女を見送るのでした。

「ステージで歌唱行為...... リカイフノウ。 シャドウの行動パターンに該当ナシ」
「フン。 よく覚えていないが...... 僕がやったのなら、それはきっと完璧なものだったのだろう」
「そう言うオメガだって生け花の家元って何なのよ? まあ、アタシはその弟子だったワケだけど」

チームダークの3人は状況を淡々とクールに振り返りながらも、どこか楽し気です。

「どうしよう...... ぜったいボスにおこられちゃう~」
「やっちゃったものは仕方ないだろキューボット...... まあ、飲めよ?」

キューボットとオーボットのロボットコンビは、カウンター席で微妙な顔つき。 ですが大量に空けられたオイルのボトルは、なんだかんだで彼らもこの場を楽しんでいることを物語っているのでした。

そして別のテーブルでは......?

「アタシの占い、大活躍だったわね! でもやっぱりブレイズの着せ替えが最高だったわ! ね、ブレイズ?」
「しょ、職務に応じて装いが変わるのは当然だろう。 まあ、新鮮な体験ではあったな」

魔法皇女ブレイズと占い師エミーの思い出語りに、ピザ皿を片手に口をはさんだのは、ウエイターとしてティカルたちを手伝っていたシルバーです。

「それが魔法皇女...... すごい戦闘服だな! あの戦いじゃ、メイド服よりそっちの方を着るべきだったんじゃないのか?」
「いや、あれは、エミーが......」
「シルバー、あなた何にもわかってないわね! ほんとわかってないわ!」

エミーに追い出されるようにテーブルを離れたシルバーは、隣のテーブルで今の一部始終を見てクスクスと笑うエリスのテーブルにピザを届けます。

「何をそんなに笑ってるんだ?」
「いえ別に。 ただそのウエイター姿が似合ってるなって。 ......今度その衣装でスケートの舞台をやってみたらどうかしら?」
「......なんでだ? 動きにくいじゃないか」
「もう! ほんとに、わかってないのねえ」

あちこちのテーブルからこぼれる笑い声。

まさに縁もたけなわといったところでしたが、お別れは突然始まりました。

「Heyベクター! 身体が透けていってるぞ?」
「ぬなっ!? こいつは一体......!」

気付けばベクター以外にも、ひとり、またひとりと体がゆっくりと透明になり始めています。

「テイルス! これは......?」
「きっと、異世界化の力が消えてきたんだ。 たぶん元いた場所へ、元の姿で戻るんだと思う」

しばしの沈黙...... ピザ窯の薪が燃えてはぜる音だけが辺りに響きますが......

「おう、そいじゃまたな! 楽しかったぜぃみんな! クリームの嬢ちゃん、それと...... 奥さん!」

明るい別れの挨拶とともに光に包まれてベクターが消えると、それをきっかけに、場は暖かでなごやかなお別れの場となったのでした。

順番で光に包まれて消えていく仲間たち。

「ソニック! 俺との決着、いずれつけさせてもらうからな?」
「いつだって構わないぜ?」
「へっ! 気が合うじゃねえか......」

......やがてナックルズまでもが消えてしまうと、 いつしかその場にはソニックとテイルス、そしてティカル、カオスの4人だけが残されました。

がらんとなった店内をゆっくり見回した後、ソニックの方に振り返ったティカルは、厨房横のカウンターに寄りかかりざまポツリと問いかけます。

「私たち2人は、みんなと違うから...... 消えたら、本当にいなくなっちゃうのかな......?」

儚い笑顔を作ったものの、そう言い終えてうつむくティカルに、黙々とピザの調理を続けるカオス。

数秒の沈黙。

やがて彼女たちをじっと見ていたソニックは穏やかな笑顔を取り戻すと、ティカルの肩に右手を...... 左手を自分の胸に当てて、優しくこう言ったのでした。

「オマエたちは、みんなのココからやって来たんだ。 そこに帰るだけさ!」
「そうだよ、消えたりなんかするもんか! ......お腹に入った美味しいピザもね!」

そうテイルスも請け合うと、誰からともなく笑いがこぼれ、カオスも肩を揺らします。

「ありがとう! あと1枚、とっておきのピザがあるから食べてみて?きっと気に入ると......」

晴れやかな笑顔でそう言いかけ、2、3歩踏み出したティカルをソニック達が目で追うと......

そこにはもう、風吹きすさぶ無人のエメラルドの神殿跡地が広がっているのみだったのでした。


「さーて、テイルス! そろそろ行くとしようぜ?」

沈黙の後、突然ソニックがテイルスに呼びかけます。 きょとんとするテイルスに、ソニックはさらに続けました。

「世界が完全に元に戻るには、まだ時間がかかるって言ってたろ? だったらその前に、いろんな異世界を楽しんでこなきゃな!」
「そ......そうだね! まだ会ってない友達もいるし!」

走り始めたソニックに、テイルスは慌てて追いつきます。

「まずはジェットのヤツだな! どんな風になってるか楽しみだぜ。 間に合うと良いけど......」
「待って! 待ってよソニックーー!」

無数の冒険の舞台に加え、「異世界」という無限の可能性をも隠し持った、青くて丸いソニック達の星。

その遠く広い地平線に向かって、冒険好きの青いハリネズミ「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」は今日も、新しい冒険を求めて走り出していったのでした......!

(おわり)


一方その頃......

煮えたぎる溶岩の湧き出る、かつてエッグマンランドのあった地下洞窟基地。 そこにはなんとまた、あのコアを手にほくそ笑む、エッグマンの姿がありました。

「こんなこともあろうかと、最後の材料でもう1つだけ予備を作っておいたのじゃ! 例のエネルギーのほとんどは失われたが、残りをこれでかき集めれば......んん?!」

気が付くと、手にしていたはずのコアが無くなっています。

「やっとスキを見せたなドクター!」
「な、なんじゃと!?」

その声にエッグマンが振り返ると、その先にはきらびやかな衣装をはためかせ、コアを片手に遥か遠くで薄笑いをするインフィニットの姿がありました。

「アンタにはずいぶんと貸しがあるからな。 コレで帳尻を合わさせてもらう!」
「ま、待て! そいつを返せ! 待つんじゃ! ......待って~!!」

エッグマンの必死の懇願を振り切ってその場を離脱したインフィニットは、谷底の溶岩溜まりのわきに降り立つと、奪い取った戦利品をうっとりとした目で眺めます。

「フフフ、やはりファントムルビー試作型の改造品...... 思った通りだ! これを着ければ、俺はもう一度力を!」

かつてファントムルビーを装着していた胸に手を当て、喜びに肩を震わせかけたインフィニットでしたが...... 不意に彼の心に冷たい風が差し込みました。

(俺はまた、こんなものに頼るのか......?)

力を渇望する心と、その奥底にあった彼のプライドが、インフィニットに迷いを生じさせます。 「これ」を胸に装着するか否か...... 時間にしてほんの数秒の躊躇が生まれたその瞬間。

「......あ!?」

異世界化の消失がインフィニットの身に起き、光と共にインフィニットの身体が消えていきます。 手にしていたコアは彼の手をすり抜けると、煌々と燃え上がる溶岩へと落ち...... 「じゅっ」という音と共に永久にこの世界から失われてしまいます。

目を見開き、呆気にとられたインフィニットでしたが......

「フ、フフ、ハハ......」

彼はやがて首を軽く振りながら苦笑し、まるでこれで良かったのだとでも言いたげな表情を浮かべると、そのまま光と共に消えていったのでした。 世界は誰も知る由もない数奇なめぐり合わせによって、再度救われたのです。

空にはただ風が、吹いていました。

(異世界大喜利ストーリー おしまい)