『ソニック25周年』振り返りAct 1
みなさんこんにちは、「ソニック」シリーズ サウンドディレクターの大谷です。
薄々、勘付いているかもしれませんが、今年はソニック25周年です。
アニバーサリーイヤーは何かと振り返る機会も多いものです。このコラムでもいくつかのタイトルの制作当時のことなど振り返ってみたいと思っています。
というわけで早速ですが、先日4月2日(土)に開催されました"SONIC ADVENTURE MUSIC EXPERIENCE”のトークイベントに出演しました。私が初めて制作に参加したソニックタイトル『ソニックアドベンチャー2』を制作していたのは2000年頃のことですので、今でも鮮明に覚えていることもあれば、忘れてしまっていることもあり、トークの材料になりそうなことを下調べするため、当時のメールや資料などを掘り起こしていました。
溯ること1999年にセガ(当時セガ・エンタープライゼス)に入社し、研修期間を経た後、ソニックチームに配属された同期の新人チームが企画した『チューチューロケット』の音楽を担当することになりました。これが最初のお仕事です。
『チューチューロケット』は新入社員の研修課題として作られたゲームから生まれたタイトルです。サウンド部の部長から「ひとりでどれだけ出来るのかやってみて!」と丸投げ。ありがたいことに音楽は全て任せて頂きました。
入社する前は、KORGのM1というシンセサイザーや、前回のコラムで紹介したAKAIのMPC2000というサンプラー、YAMAHAの4トラックのカセットMTR(カセットテープのマルチトラックレコーダー)、エレキギターとベース、あとBOSSのマルチエフェクターなどが制作用の機材でした。 なのでMachintoshのシーケンサーを使って作曲をするのはもちろん初めて、そもそもパソコンにそんなに強いわけでもなかったので、新しいツールを覚えるのに苦労しながら制作していました。
『チューチューロケット』は入社した年の11月には発売していますので、制作はスピード感がありました。その後は、『ROOMMANIA #203』や『エターナルアルカディア』のMA(映像に音楽や効果音、台詞などの音を付けていく作業)など、いくつかのプロジェクトの部分的な作業を担当していた。そんなある日、部長に会議室に呼ばれ「大谷君、次の仕事なんだけどさぁ『ソニックアドベンチャー2』に入ってもらうから!あと『サクラ大戦3』もやってもらうからよろしく!」と伝えられました。
どちらもドリームキャストの名作タイトルですね。新人教育の方針としては当時も今も変わらないと思うのですが、音楽制作から効果音制作、MAに音声編集と様々な仕事を経験させながら、全体のサウンドデザインを考えながら音楽や効果音の制作の出来る人材として育てていきます。『ソニックアドベンチャー2』では音楽を担当させてもらいましたが、『サクラ大戦3 〜巴里は燃えているか〜』では戦闘パートの効果音を担当し、なんと取材旅行でパリに行くことが出来ました。まさかその10年後に、『リズム怪盗R 皇帝ナポレオンの遺産』で再びパリが舞台のゲームを制作することになるとは思いませんでした。(笑)
SA2にアサイン
さて、今日の本題『ソニックアドベンチャー2』に関してです。プロジェクトは既に動き始めていて、想定される物量などから、『ソニックアドベンチャー』のサウンドチームに増員が計画されていました。そこに、私がアサインされることになったのです。サウンドディレクターである瀬上さんはサンフランシスコに拠点を移した開発チームと合流していましたので、床井さんや私を含む日本のサウンドチームは、スケジュールや予算管理、レコーディングの手配などをするサウンドプロデューサーの元、サンフランシスコと東京で連携をとりながら楽曲制作を進めていきました。
打ち合わせの後、ナックルズのステージ曲と、チャオまわりの一部の曲を担当することになりました。私がアサインされた時に送られてきた各キャラクターの楽曲方向性のアイデアが記されたメールには、[ナックルズ:アシッドジャズ、ダブ系]と書かれていました。
どういう話し合いを経て、ラップ、ヒップホップ系になったのか記録に残っていなかったのですが、床井さんが『ソニックアドベンチャー』で制作されたナックルズのテーマ曲「Unknown from M.E.」を構成する、ファンク、ロック、ラップ等の要素から、ラップを軸に膨らますことで、ナックルズのステージ曲の特徴を明確に出来るのではないかと考えたのだと思います。そして、生音のファンク路線で進めてしまうと、ルージュのステージ曲で検討されていた、ジャジーな路線との差別化が難しいと考え、ヒップホップ系の打ち込み、サンプリングを駆使したトラックで進めることにしたのだと思います。
制作のフローとしては、楽曲のデモが出来るとまずはサウンドディレクターに聴いてもらいます。決められたコンセプト通りの方向性になっているかどうか、開発チームに聴かせて意図が伝わるレベルのデモになっているかどうか、足りない要素があるか、ブラッシュアップしていくとしたらどのあたりか、などが話し合われます。 サウンドディレクターのOKが出たら ディレクターをはじめとする開発チームのメンバーに聴いてもらうわけですが、 単に曲として聴いてもらうか、ゲームに組み込んだ状態で聴いてもらうか、キープして何曲か溜まってから聴いてもらうか、より伝わりやすいプレゼンテーションをするために、どの手段を選択するのがベストか、その都度サウンドディレクターが判断していきます。
バージョン2
当時のメールを見返していたら、こんなエピソードがありました。「Aquatic Mine」ステージ曲のデモが形になり、いくつかの要望を吸収しながらOKをもらうことが出来たのですが、その後、ブラッシュアップをするうちに異なるアイデアが閃いてしまい、最初のデモとは異なるバージョンを作ってしまいました。自分としては新しい方を気に入っていたので曲を変更したかったのですが、 OKの出ているものを勝手に作り変えていてしまっているわけで...... 最初のバージョンを開発チームに提案してくれていた瀬上さんを困らせてしまっていたようです。テヘ(・ω<) いくらコンポーザーが最高な曲が出来たぜ!と思っていても、開発チームの理解を得られなければ、その曲がゲームに収録されることはありません。
何か提案したいことがあるならば、説得力のあるデモを作ることはもちろん、言葉によるプレゼンテーション能力も重要になりますし、意見が食い違った場合の音楽的な調整能力も重要なスキルです。「Aquatic Mine」の曲は最終的に最初のバージョンに新しいバージョンの要素を合体することで合意を得ることが出来ました。
実は、そんな途中経過のエピソードも全く忘れていたのですが、当時のメールを読み返して思い出したのでした。どの曲も誕生する過程でエピソードの1つや2つあるものです。
どんなプロジェクトだった?
他にもニューヨークでのラップのレコーディングなど、語れることは色々とあるのですが、長くなるのでまたの機会にします。当時を振り返ってみて、『ソニックアドベンチャー2』は私にとって本格的な楽曲制作を経験した最初のプロジェクトでした。瀬上さんのサウンドディレクションからは、大規模プロジェクトにおける制作の進め方など学びましたし、レコーディングに際し譜面の書き方や準備すべきことなどは、床井さんに教えてもらうなど、挙げればきりがないのですが様々な事を学ばせてもらいました。そして、ここが「ソニック」シリーズにおける自分にとってのスタート地点なのだと再認識しました。私も現在はサウンドディレクターとしてサウンド全体も見渡しつつ、いちコンポーザーとしては少しでも良い曲を作れるようにと 立場を兼任していますが、当時は自分の担当曲を良い形で仕上げることだけしか考えていなかったわけですから、そのいい意味での無責任さを今後の制作にも取り入れていきたいと思った次第です。
ではまた!