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『ソニックマニア』 ポルノ鈴木氏 プレイインプレッションを公開!

ポルノ鈴木

ゲーム、クルマ、ファッションと様々なカルチャーを横断的に網羅するフリーダムライター。90年代に海外で展開された『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』のカッコ良さに惹かれ、現在も関連マーチャンダイズを多数コレクション中。一番好きなゲームハードは「スーパー32X」。

'90sリバイバルとともに蘇った"あのとき"のソニック

いまは「ゲームはカッコ良い」と、何の疑いもなく言える時代だ。ゲームキャラクターとファッションブランドがコラボするのは珍しくなく、ゲームネタのTシャツやスニーカーは街に溢れ、なんならCOACHやAnya Hindmarchと言ったハイファッションブランドが、二桁万円のゲームネタプロダクトをリリースするまでに至っている。

多くの有名人がゲーム好きであることを当たり前のように公言し、グラフィック面や音楽面でゲームからの影響を大きく受けた作品も多ジャンルで見受けられ、さまざまなカルチャーに影響を及ぼすほど、ゲームの社会的地位というのはこの20年ほどで大きく向上したように思える。

しかしゲームソフトがまだROMカートリッジで供給されていた'90年代前半は、まだ"ゲーム=カッコ良い"と素直に言える素地はなかった。当時のゲームのイメージはまだまだキッズカルチャーの延長にあり、"カッコ良い"という目線で語られるジャンルではなかったのだ。

その潮目を変えたのは、1991年にセガから登場したゲームソフト『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』だった。当時のアクションゲームの中ではトップクラスの技術力で作られており、家庭用ゲームでは見たことのないようなその圧倒的なスピード感は、多くのゲーマーを夢中にさせた。それでいて操作は方向キーとワンボタンのみというシンプルさで間口が広く、ポップなBGMも新世代のアクションゲームに相応しいサウンドだった。

そして何より、主人公ソニックの存在感こそが新しかった。万人に受けるような親しみさはあえて排除し、何も操作せずに放置すると、ソニックは画面上で足踏みをしてプレイヤーを睨みつけるというやんちゃな設定。そもそもハリネズミという"触るものみな傷つける"ような生き物がベースである彼は、"悪ガキ"さを前面に出した過去にないキャラクターだったのだ。

このソニックの悪ガキ感は日本よりもむしろ海外で受け、海外版のソニックのイラストは、日本版よりも目つきが悪く描かれた。より悪ガキ感の増したこのハリネズミは、カッコ良いキャラクターとしてゲーマー以外にも愛されるようになり、ソニックはゲーム内容よろしく様々なカルチャーを縦横無尽に走り抜ける存在となった。

'90年代に入ると、テクノミュージックが世界的に大きな盛り上がりを見せるのだが、そのときに海外の感度の高い人のあいだで、テクノとゲームの融合がおもしろがられた。クラブでゲームを遊んだり、テクノにゲームミュージックをサンプリングしたり、さまざまな融合があった中で、ソニックはアイコン的な存在だった。クラバー向けのアパレルとして、アダルトサイズのソニックTシャツが愛好され、ダンスミュージックのコンピレーションアルバムのキャラクターに、ソニックが起用されたこともあった。

この動きの極めつけは、1993年、イギリスのファッションカルチャー誌『i-Dマガジン』1月号の表紙を、ソニックが飾ったことだろう。このときの雑誌の特集テーマは"ゲームカルチャー"で、前述したような音楽やファッションとゲームが結びついていくという過去にない動きを、『i-Dマガジン』が特集テーマとしてフィーチャーしたのは大きな出来事だった。そしてその象徴として選ばれたのが(目つきの悪い)ソニックだったということは、このハリネズミが最先端のシーンでも暴れていたことの証左といえるだろう。

ソニック以前にも、ソニック以外にも、ファッションや音楽シーンとリンクしたゲームキャラクターがいなかったわけではない。しかしそれをメジャーのフィールドで大規模にやってのけたのは、ソニックが最初なのだ。そしていまのファッションが'90sリバイバルがトレンドであるように、このたびソニックもリバイバルした。『ソニックマニア』は完全新作でありながら、メガドライブ時代のオールドスクールさをあえて意識しているのが特徴だ。

これはまさにいまのファッションの世界における'90sリバイバルとリンクしており、FILAやNAUTICA、Kappaといった'90年代に流行したスポーツウェアブランドが、当時のカラフルさを意識して新作をリリースしているように、ナイキが新しいマテリアルを使って'90年代の名品、ズームフライトやモア・アップテンポを復刻しているように、『ソニックマニア』も"懐かしくて新しい"仕上がりになっている。

当時を知る人にとっては懐かしいが、ただの復刻版ではないので新しさもあり、当時を知らない人にとっては、この古い肌触りこそが新しい。'90年代の最先端を駆け抜けたソニックが、こうしてまた'90sファッションリバイバルとリンクして現代に蘇ったというのは、なかなかに興味深い話ではないだろうか。


→杉森建氏のプレイインプレッション
→梅田浩二(ウメP)氏のプレイインプレッション