今回、かなり大規模なプロジェクトになっていたと思います。スタッフのみなさんの様子などはいかがでしたか?
ディレクターとして、プロジェクトをまとめていくのも大変だったかと思いますが、どんなご苦労がありましたでしょうか?
ソニックとしては過去最大規模クラスのプロジェクトでした。とにかく、開発メンバーのみなには苦労をかけたと思います。プロジェクト終盤はみな泊まりこみでクタクタになっていました。
今回、「開発環境をゼロから組んでいる」「複数のゲームハードに向けて同時に開発している」「ゲームの内容にボリュームがある」ということから開発現場は本当に大変でした。それでも、「良いものを作りたい!」という情熱にあふれるスタッフに恵まれましたので、非常に良い水準にまで持ってくることができたと思います。スタッフのみなさんには本当に感謝です。
開発の苦労というのはいろいろありますが、大きいものは主に二つありました。
一つ目は「開発環境の整備」です。先ほど申した「ヘッジホッグエンジン」の開発は非常に苦労しました。PlayStation3とXbox360というハイエンド機に対して同時に高水準の映像表現を可能にするライブラリやツールを開発する難易度は本当に想像を絶するものがありました。特に今回は「グローバルイルミネーション」という光と影の表現に対する新しいアプローチを試みたのでそれが開発の苦労にさらに数倍拍車をかけました。ですが、苦労の甲斐あって非常に魅力的な映像表現を達成することができたのではないかと思います。
もうひとつの苦労は、「レベルデザイン」です。
レベルデザインというのは、アクションステージの形状や仕掛けの配置のレイアウトを考える作業なのですが、「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」としていかに面白くて爽快なアクションステージになるかということを追求するために、トライ&エラーを繰り返しました。今回のソニックのステージは6~20kmにも全長が及ぶ、それはそれは広大なものなのですが、その広大なステージのうちのいくつかは、はじめからレイアウトを作り直したりもしました。レベルデザイン担当者達やステージを実際に美しく構築するアーティスト達は本当にしんどかったと思います。これもまた幾多の試行錯誤の成果として、迫力と爽快感とスピード感とゲームプレイの楽しさが詰め込まれた素晴らしいアクションステージ達ができあがったと思いますよ。
ヘッジホッグエンジンについて
ハイエンド機(PlayStation3とXbox360)でゲームを制作するために開発した、「ゲームを作るための総合環境」です。いろいろなツールやライブラリで構成されています。
最大の特徴は「グローバルイルミネーション」というライティング技術を取り入れているところです。これは光と影の表現を一気に現実のものに近づけるための技術で、その光と影の計算をあらかじめ膨大な計算をPCで行って、それをデータ化してゲームに使用しています。光と影の計算は、我々が独自に考案したアルゴリズムで効果は大きいのですが、とてつもない計算量になってしまうのが難点でした。1台のPCで計算すると1つのステージで数ヶ月から半年くらいかかってしまうのです。そこで、我々は開発メンバーがそれぞれ使っているPCの計算力を少しずつ分けてもらってみんなのPCで一斉に計算する「分散コンピューティング」という手法で、数ヶ月から半年かかる計算を一晩~数日で済ませることができるようにしました。
他にも超高速で走り抜けるソニックに追いつくようにデータをディスクから読み込むための技術など、いろいろなところに工夫をしています。
表からは見えない何百項目にも及ぶプログラミングの工夫が「ヘッジホッグエンジン]に施されていますが、それによって、美しいリアルタイムCG映像が実現されています。
名前から「ソニックのための開発環境ですか?」と尋ねられることがありますが、アクションゲーム、RPG、スポーツ、レース、FPS、パズルなど、広い範囲のゲームを制作対象にできると思います。アクションゲーム、特にものすごい速く走るソニックというゲームは開発環境に厳しい条件を要求するので、自然と他の作品ならゆとりを持った作り方ができるかと思います。
CG映像の美しさは『ソニック ワールドアドベンチャー PlayStation3/Xbox360版』のウリの一つなので是非堪能してください。きっとそのリアリティと迫力に満足していただけると思います。
今回の作品の見どころは?!
では、簡単に語ってみますね…。
まずは何と言っても「ソニックパートのスピード感、迫力、爽快感」だと思います。「ソニックらしさとはこういうことだ」という「ソニックイズム」が表現できたと思います。本作品の中枢となる非常に大切な部分です。
そして、先ほども触れましたが「ヘッジホッグ エンジン」による美しいリアルタイムCG映像も大きな見どころです。アクションステージも、カットシーンも非常に美しく仕上がっています。「見るだけでも楽しい」ゲームになっていると思います。
他には、今回の「大胆な変化」である「ウェアホッグパート」も見どころです。夜になるとソニックは毛むくじゃらのパワフルなモンスターになってしまいますが、昼のソニックとは違う、格闘アスレチックアクションが異なる魅力を引き出していると思います。
そしてまだ続きますが、「村パート」も是非じっくり楽しんでもらいたい部分です。『ソニック ワールドアドベンチャー』には世界各国に100人ほどの村人が出てきて、それぞれに細かなキャラクター設定があり、豊富で愉快な会話が用意されています。世界を巡って村人達に話しかけるのが楽しみになると思いますよ。
さらに、見どころはオープニングCGムービーとリアルタイムのカットシーンです。オープニングCGムービーはセガの誇るVEアニメーションスタジオが制作し、『アップルシード』や『エクスマキナ』などのCGアニメ映画で有名な荒牧伸志さんが監督を行ってくれていますので、アクション性にとんだドラマチックなオープニングCGムービーに仕上がりました。本当にカッコイイですよ!
そしてリアルタイムカットシーンもオープニングCGに負けず劣らず素晴らしい出来です。「ヘッジホッグエンジン」による美しいライティング環境の下、ソニックやチップを始めとする様々なキャラクター達が表情豊かにストーリーを魅せてくれ、上質なCGアニメーションを見ているかのような気分にさせられることと思います。
さらにさらに、サウンドも必聴です!『ワールドアドベンチャー』の名に相応しく、世界各国の民族音楽をほうふつとさせる楽曲を、テンポの良いダンス、テクノ系の彩りでうまくまとめてくれています。
…とまあ、全然簡単に語ってませんね(苦笑)。
他にもいろいろ語りたいのですが、とにかく見どころが語りつくせないほどたくさんあるソフトだということが伝われば嬉しいです。
海外出張も多かったようですね。どのようなところへ行かれ、どのようなことをされてこられたのでしょうか?
海外での評判などはいかがでしたか?
はい、今回は海外のセガとも密接にやりとりをしながら外国人の意見も積極的に取り入れて開発を進めました。出張としてはアメリカの拠点となる、サンフランシスコのセガ・オブ・アメリカと、ヨーロッパの拠点となるイギリスのロンドンにあるセガ・ヨーロッパに行くことが多かったですね。どちらもとても美しい街ですし、夜は現地スタッフにおいしいレストランでご馳走してもらえるので、出張に行くのは毎回楽しみでした(笑)。
出張ではゲーム内容のプレゼンテーションをしてディスカッションをしたり、フォーカステストと言って、開発中のゲームを一般のゲームユーザーの人達に触ってもらって意見を集めたり、いろいろなことを行いました。
また、「ヘッジホッグエンジン」の一部はイギリスのエンジニアの協力も得ていますし、背景やオブジェクトのモデルデータの一部は中国にあるセガ・シャンハイで制作を請け負ってもらいました。
このように今回のソニックは世界中のセガの協力を持って制作が進められたのです。それぞれの考え方や捉え方にもいろいろなお国柄が出てきて非常に刺激を受けましたし、品質の向上にも大きく役に立ったと思います。
海外の評判ですが、特に昼のソニックパートの評判がすこぶる良いですね。
「こんなソニックを待っていた!」というお話をたくさん頂いてありがたく思っています。